2014年2月1日土曜日

キング・クリムゾンの立ち位置は?



プログレッシブ・ロックといえば、と問われれば大半の人がキング・クリムゾンの名前を出すであろう。ビートルズの『アビーロード』を抜いた云々の伝説は、 そのベールが剥がされ、嘘ないしどこかのマイナー紙での出来事であろうということが現在では分かっているが、それでも尚、そのフォロワーの多さを見て も推し量れるように強い存在感を放つバンドだ。ご存知のように、プログレ名盤百選のような企画では必ず冒頭を飾る、いわゆるプログレ四天王、ないし5大プ ログレの筆頭でもある。

ところで、ここでプログレの特徴について少し触れておこう。よく言われるイメージは「暗い・重い・長い」の三重苦というものだ。散々な言いようだが、あ ながち外れというわけでもないので否定しきれないのが辛いところだ(笑)。このイメージはクラシックで言えば、マーラーやショスタコーヴィチに付されるよ うなものであろう(尤もショスタコーヴィチの曲の長さは、クラシックとしては標準的であるが)。この二人に共通しているのは、浪漫主義的で懊悩や苦痛を表 現している点だ。その音楽性は極めてパーソナルで暗く重いジメジメとしているので近づき難いものがあるが、一度そのなかに入り込んでしまうと、そこに溢れ る美しい旋律や激しい音像に魅了される、というものだ。これはプログレ全般に関しても言えることだろう。最初は「暗い・重い・長い」の三重苦で接しにくい が、しばらく触れているうちにその美しさや高揚感を発見することが出来るのだ。この深みこそプログレの魅力であろう。

イメージはこれで分かっただろうが、じゃあ音楽的な特徴は?ということについて次に触れよう。これは箇条書きにした方が分かりやすいと思うので、以下に列挙していく。

・ロックとそれ以外のジャンルとの融合(クロス・オーバー的)
・組曲形式
・変拍子の使用
・器楽演奏の重視(インストゥルメンタル)
・文学的な歌詞


取り敢えずこの辺りであろうか。そもそもプログレッシブ・ロックというジャンル自体、帰納的に名づけられたものなのでプログレと呼ばれるバンドでも、以 上で挙げた特徴の全てを持っているわけではないことに注意されたい。既存のジャンルの枠で括れないものがプログレと呼ばれるようになった、と考えて 頂ければ良いだろう。

では、これらの特徴を踏まえた上で、キング・クリムゾンの立ち位置を確認してみよう。音楽性の特徴はキング・クリムゾンが基準になっていると言っても過 言ではないので、当然ながらいずれも満たしている。イメージの面でも、また同様のことが言えるだろう。しかし、先ほどクラシックの作曲家を引き合いに出し たような浪漫主義は、キング・クリムゾンに於いて希薄だ。詩人のピート・シンフィールドが在籍していた時期は、彼の持つ性質からか浪漫主義的な 表現が散見されたのだが、彼が離れてからの作品では前衛性、すなわち変拍子を押し出した曲が多くなる。これはロバート・フリップの持つ純音楽的な性質によ るところが大きい。
変拍子は身体が想定するリズムを崩しているため、それだけで身体に訴えかける力を持っている。しかし、当然ながら通常のリズムではないので、聴き慣れて いない人からすると気持ちの悪いものになってしまう。故に難解なイメージがキング・クリムゾンには付き纏っているのだが、それを克服したとすればどうであ ろう。変拍子という殻を破ったならば、そこに現れるのは意外にもポップな音像であることに気づかされるのではないか。これを私は勝手に「未来のポップス」 と呼んでいるのだが、キング・クリムゾンの音は変拍子で彩りを加えたポップスとして捉えると、その性質が分かりやすくなるように思えるのだ。現に車のCM で使用された「Easy Money」など、昨日出たポップスの曲だと言われても通用するほどキャッチーでポップな音ではないか。すなわち私が言いたいのは、キング・クリムゾンは 芸術的な表現というより、いつまでも古びない斬新なポップスをやっていたのではないか、ということだ。

「未来のポップス」としてのキング・クリムゾン。このことを考えていると、何故キング・クリムゾンがプログレの代表格として扱われるのかが見えてくる。そ う、キャッチーで分かりやすいからなのだ。一般に名盤と言われる『クリムゾン・キングの宮殿』、『太陽と戦慄』、『レッド』の3枚と俗に裏名盤と呼ばれる 『アイランズ』とを比べたならば、キング・クリムゾンの立ち位置が見えてくるだろう。前者の3枚は捻くれた要素を持つポップスないしハード・ ロックとして捉えられるが、『アイランズ』は圧倒的に「分かりにくい」。もしフランス辺りのマイナーなバンドが『アイランズ』を唯一作として残したとした ら、その紹介には「神秘的で思索的な唯一作で知られる○○!」といったコピーが書かれることだろう。しかし、キング・クリムゾンのなかで『アイランズ』 は、決して重視されるアルバムではない。それはキング・クリムゾンに詩的な要素が求められていないからだろう。

こうした理由からか、プログレ入門として皆キング・クリムゾンを通過するが、その先にあるバンドに触れるにつれてキング・クリムゾンを聴く機会は減って いくような気がする。ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターやキャメル、ソフト・マシーンといったバンドの方が遥かに詩的であるからだ。事実、私はキン グ・クリムゾンよりもこれらのバンドの方が好きだ。

だが、キング・クリムゾンが単なる入門バンドかというと、決してそんなことはない。『アイランズ』の存在が大きいのだが、キング・クリムゾンにはこのよ うに分かりやすいだけでない要素が含まれているのだ。一度ハマってしまうとなかなか抜け出せない魅力がそこにはある。それ故に『アイランズ』は「裏」名盤 として扱われているのだ。決してキャッチーではないが、言い知れぬ引力を持つこのアルバムがあるために、キング・クリムゾンの音楽は今でも価値を持ち続け ているのではないだろうか。といった辺りで本稿を終わろうと思う。『クリムゾン・キングの宮殿』、『太陽と戦慄』、『レッド』だけがキング・クリムゾンで はない。それだけで止まっている方は、是非とも「裏」名盤『アイランズ』を聴いて頂きたい。それによってキング・クリムゾンの懐の深さが、プログレの魅力 の深部が、垣間見られることだろう。

(2011/02/28 掲載) 文責 @mila_hammill

2012年1月25日水曜日

「これってプログレになりませんか?」



1993年にシングル「CROSS ROAD」でブレイク、その後2回の活動休止を挟みながらも常に日本のトップ・ポップバンドであり続けるMr Children。そんな彼らのどこがプログレなんだ!と怒られてしまいそうですが、ミスチルは結構プログレが好きで、とりわけピンクフロイドが大好きな んですよね。
ただ思うに、ミスチルが好きなフロイドは初期のシド・バレット時代や『狂気』をリリースしていた黄金期ではなく『The Wall』あたりの後期フロイドだと思います。その証拠に、実は彼ら「Mr Children」というバンド名の前は「THE WALLS」というバンド名だったのです!まんま過ぎて笑えますねw

さて、1994年にリリースしたアルバム『Atomic Heart』(このタイトルもフロイドの原子心母から…)が当時のオリコン最高記録である300万枚を売り上げ、1994~95年に発売したシングルがす べてミリオンセラーを記録するなど「ミスチル現象」真っ只中だった1996年に発売されたのが本作『深海』です。それまでのポップなミスチルからは考えら れないダークなアルバムで、それまでに発売していたポップなシングル曲も殆ど収録されない「問題作」でした。全曲ほぼ曲間がなく、いくつかの曲はノンス トップで繋いでいるなどプログレ的な作りになっています。
しかし…「プログレ的な作り」と言いましたが、曲間をヘリコプターの音で埋めいている所など聴いていて笑えるぐらいに『The Wall』です。「虜」という曲のギターが凄くロバート・フリップな音作りであることや、本作の発売後に行われたツアーのタイトルが「regress or progress」だった事を思うとフロイド以外のプログレも多少は意識しているのかもしれませんが…(ラストトラック「深海」の最後の叫びは Genesis「The Musical Box」のラストでピーガブが叫ぶ「なーう!なーう!」みたいだし…ってこれは結構こじつけです)

僕は小学生の時初めてこのアルバムを聴いた時、あまりに他のミスチルのアルバムから逸脱していた為あまり好きになれませんでした。しかし今、19歳の自 分が聴いてみるとこのアルバムはかなりイケます。単純に良いアルバムだし、ミスチルで唯一ぐらいに「音作りが許せる」アルバムだとも思います。小学生当時 は「深海こそミスチルで1番の傑作!」なんてポップをCD屋で見ても「どこが?」など思っていたのですが、今ならそう言いたくなる人の気持ちも分かるか な…まあ、個人的にはミスチルで好きなのは初期の『kind of love』と活動再開後の『DISCOVERY』『Q』『It's a Wonderful World』なのですが。。。

余談ですが僕が最初にミスチルとプログレの間に関係を見たのは、四人囃子の2nd『ゴールデン・ピクニックス』に収録されている「空と海の間」という曲 を聴いた時でした。この曲の一部分が凄くミスチルっぽいんですよね…最初は「もしや桜井和寿は四人囃子からも影響受けてたのか!」などと思ったりしました が、今思うと四人囃子もミスチルもこの日本でかの地のフロイドに影響を受けた面では変りなく、したがって必然的に似ている部分が出てきたわけですね。再び ミスチルがプログレに回帰してくれたら全俺が泣くんだけどなぁ…(笑)

(2011/03/23 掲載)文責 @Antimonesia

2011年8月8日月曜日

「BEMANIシリーズのプログレ」


・序


 ゲーム音楽というと、どんな音楽をイメージされるでしょうか。それこそ初期の8bitにはじまり、壮大な冒険に相応しい交響楽、アクションゲームに躍動 感をあたえるロック、異国情緒あふれるトラック、レースや格闘、スポーツゲームには高揚するような4つ打ち、あるいは緊張、焦燥といった微細な空気を表現 する音響等々と、ゲームの内容や効果により付される音楽の種類も様々です。しかしそれら諸々の中間点としてぼんやりイメージされる「ゲーム音楽」という と、幅広いバリエーションと折衷性、作品(ゲーム)全体としてのコンセプト、詩(物語)的要素を含むものが浮かび上がってくるように思います。…とても強 引に持っていきましたが、そう、総体としての「ゲーム音楽」はじっさいプログレ的です。
 では「音楽ゲーム」の音楽、というとどうでしょう。音楽をテーマにしたゲーム、そこに使われる音楽は…?たちまち禅問答のようですが、大抵はゲームごと に対応ジャンルの傾向があります。よって「音楽ゲームの音楽」一般的な「ゲーム(特有の)音楽」より、ポピュラー音楽に接近したものであることが多いで す。今回触れるBEMANIシリーズについて見ていきましょう、とその前に簡単にBEMANIシリーズの紹介をします。
 BEMANIシリーズはコナミの誇るリズムアクションゲーム(いわゆる音ゲー)の一群です。向かってくるチップが判定バーに重なる瞬間に対応するボタン を押す、という基本ルールのもと、DJ機器、ギター、ドラムその他を模倣したコントローラを演奏して遊びます。BEMANIシリーズの原点である 「beatmania」やその発展型の「beatmania IIDX」(通称:IIDX、弐寺)では、プレイヤーはDJになるためテクノ(とりわけハードコア)、トランス、ハウスなどのクラブミュージックを多く収 録しています。「Guitarfreaks & drummania」(ギタドラ)ではプレイヤーはギター、ベース、ドラムのいずれかを演奏します。楽曲は所謂バンドキッズの好むロック系が半数以上を占 めています。同様に「Dance Dance Revolution」(DDR、ダンレボ)ではダンサーとしてステップが踏めるダンス系の楽曲が中心、だと思います(このシリーズに関してはよく知らな いので言い切れないですが)。ただ「pop'n music」(ポップン、PM)にはジャンル的な傾向でなく、シリーズごとのカラーを反映したラインナップになっていて、むしろその"よりどりみどり感" が特徴になっているように感じます。現行でメインとなるこれらのシリーズには版権・カバー曲を織り交ぜながらも基本的にコナミオリジナルの楽曲が主力です (他に現行シリーズでは「jubeat」「REFLEC BEAT」といったものもありますが、こちらは版権を中心としたビギナーフレンドリーなラインナップ、という印象があります。これもやったこと無いのであ くまでイメージですが…)。


・本題 - BEMANIシリーズの「プログレ」


 音楽を主役にしながらゲームとして面白くするには、様々な工夫が必要になります。プレイヤーを飽きさせないバラエティ豊かな楽曲を用意することもそのひ とつ。先述のようにシリーズごとに大体のカラーがありますが、基本的にはどのシリーズも収録ジャンルの幅をひろくとっています。プログレも例外ではなく、 いちジャンルとしてゲームを盛り上げるべくちゃんと収録されています。また上達したプレイヤーの要求に応えるには高難度で複雑な曲が求められるため、高い 演奏技術を要するプログレのようなややこしい音楽がボス曲(条件を満たしてクリアすると挑戦可能になる高難度隠し曲)として登場します。プログレ"のよう な"というのもこの場合、"いわゆるプログレ"とは少し違う、あるいはプログレ的とされる性格の一部をクローズアップしたものであることが多いためです。
 BEMANIシリーズに登場するプログレ系の曲(以下、便宜をはかって「BEMANIプログレ」とします)はそれ自体でひとつのシーン、ジャンルと考え た方がよいかもしれません。コンポーザーの中にはプログレ系の出自や影響を持つ方もいて、そうした方が作る曲にはたしかにプログレ的な要素を含むものもあ ります。しかしBEMANIプログレには、ゲーム音楽、殊にBEMANIシリーズの収録曲であるが故の諸傾向があります。まずBEMANIシリーズでは1 曲が平均2分弱とプログレには不利な尺で統一されているため長尺の曲は一切ありません。サントラ限定のロング版でもだいたい3~5分程度です(例外あ り)。そしてその尺で"ゲームとしての面白さ"を出すためか、変拍子や絢爛な展開、細かいフィルを含むキメなどのギミックが重視されます。よってジャーマ ン系や過度に実験的な要素も削がれます。深い叙情に沈みこむような余裕もなく、叙情感は"泣き"で引き出します。それってプログレって言えるの?プログ レっぽいだけじゃないの?と思われるかも知れませんが、しかしちゃんと根底にはプログレッシブなスピリッツ、匂いが横たわっているので全然OK、と僕は思 います。プログレという枠に嵌りきるものではないのも確かですが。
 これに加え先述したシリーズごとの傾向があります。例えば「ギタドラ」シリーズではバンドキッズ的なカタルシスが好まれるため、同シリーズのプログレ系 楽曲はハードでテクニカル、あるいはメタリックな要素に偏りがちです。「IIDX」に登場する「プログレッシブ」というジャンルはクラシックの名曲のアレ ンジもしくはクラシカルな旋律を組み込んだ(広義の)プログレッシブ・トランス系の楽曲となっています。「ポップン」シリーズには、トイポップ(ポスト チェンバー?)的な曲やコンテンポラリー風、合成ジャンルなど実験的側面もあり…というのは言い過ぎでしょうか。
 また音楽ゲームとして世に数多あるジャンルを広く収録してはいますが、BEMANIシリーズ全体に"いわゆるゲーム音楽"的な性格も散見されます。 (「ゲーム音楽(総体)自体がプログレ的である」とは先述の通りですが、ここでは具体的なもの、あるいは効果音楽としての側面を思い浮かべていただきたい です。)プログレ系の楽曲では、先述の絢爛な展開やクラシカルな要素など、あとは泥臭さが見られず、大半はインストです。ボス曲としての存在感が、他ジャ ンルと比べたときの"異形さ≒プログレ"となっている感も…まぁこの辺りはだいたい偏見です、悪しからず。

 BEMANIプログレの特徴/傾向として簡単ですが以下にまとめました。
・原則として(ゲームサイズでは)平均2分弱
・いわゆるプログレからの影響、プログレへのオマージュ
(いちジャンルとしての「プログレ」の役割↔独自の表現故の「プログレ」)
・変拍子、絢爛な展開
・テクニカルでアグレッシブ
 とりわけ「ギタドラ」シリーズは、サブジャンルで区別するとプログレハード、テクニカルメタル寄り?
・コンテンポラリー風
・クラシカルなトランス


・結び


 ゲーム音楽としてはプログレ(作者も意図的)だけれど、プログレというにはコテコテすぎる…BEMANIプログレは「プログレ」と「ゲーム音楽」の狭間 に誕生したジャンル、といえるかも知れません。そしてそうした状況はBEMANIシリーズの他ジャンルにも少なからず見られます。「beatmania」 および「IIDX」シリーズに収録されることが多いテクノ/クラブ系の曲も、現場では"フェイク"として疎むDJも少なくないといいます。(こちらも、ト ラックが場として機能するには尺が短すぎる。)しかしBEMANIシリーズのコンポーザー陣も「音楽ゲーム音楽」というフィールドで各々の表現を追求する クリエイター/アーティストです。彼らによって築かれてきたBEMANIサウンドのオリジナリティが、いつしか認められる向きも出てきて、現在では「J- コア」ムーブメントの源流としてリスペクトされています。BEMANIシリーズは音楽ゲームとしてあらゆるジャンルを吸収することに留まらず、(勿論ヴィ ジュアル面、プログラミング等々も含むトータルなゲームデザインとして)独自の文化を発信しています。コンポーザーの支持が高まるにつれそれぞれの癖も強 く出るようになり、楽曲もシリーズ化や内輪ネタを絡めつつ、他に類を見ない音楽が生まれています。(先ほども少し触れましたが、たとえば最近の「ポップ ン」シリーズ収録ジャンルをみてみると、その名からは音楽が想像つかなすぎるキメラ・ジャンルの巣窟と化しています…)
 BEMANIプログレにおいてもその発祥や内容により拒まれることもあるでしょう。しかし中にはこの音楽が響くプログレリスナーもいて、またここからプ ログレに目覚める人がいるのも確かです。「J-コア」やかつての「プログレメタル」よろしく、BEMANIプログレもまた新領域として考えられるのではな いでしょうか。ゲーム音楽の現場からプログレへ、逆にプログレからゲーム音楽へ、ダイレクトな橋渡しが可能だからこそ生まれえた、ハイブリッドなプログレ /ゲーム音楽であると、僕は思います。



・どこから聴くべし?


 つい能書きを垂れてしまいましたが、とにかくまず聴いて、BEMANIプログレの格好良さを感じていただきたいです。
 本題では「BEMANIプログレ」と十把一絡げにしましたが、そのサウンドはコンポーザーごとに異なります。

 まずはBEMANIシリーズでプログレといえばこの人、佐々木博史氏による楽曲を聴いてみてください。
 通称「佐々木五大プログレ」とされる
「The Least 100sec」(GF5&dm4)
「子供の落書き帳」(GF6&dm5)
「Concertino in Blue」(GF7&dm6)
「たまゆら」(GF8&dm7 power-up ver.)
「Timepiece Phase II」(GF10&dm8)
 この5曲は何れも「ギタドラ」シリーズの高難度ボス曲を担当してきました。それゆえギター、ドラム、ベースとも派手な技巧が光っていますが、しかしなん といってもピアノの音色が目立ちます。ギターとのユニゾンや対旋律だったり、あるいはバッキングにまわったりしても、あくまでピアノが主役になっていると 思います。それでも常に高い人気を保っているのはやはり曲の完成度の高さゆえでしょう。
 佐々木博史(Hirofumi Sasaki)名義での衝撃的デビュー作にしていまやBEMANI全シリーズに移植されたマスターピース「The Least 100sec」(通称:100秒)。バンド編成に対位法を応用したという構築的な曲構成が斬新で、かつ普遍的な響きのよさも持ち合わせています。次作「子 供の落書き帳」はバッハの宗教曲のロック・アレンジ。手法はEL&Pへのオマージュでしょうか、リズム隊がスウィングしてるのがミソです。三作目 の「Concertino in Blue」は後期ロマン的な香りをジャズ・ブルース風に昇華することで"(ロマン派の)苦手克服をはかった"というクロスオーバー叙情作。スケールの大き さと親しみやすさが両立し、目まぐるしく展開するのに耳馴染みが良く、何よりメロディが格好良いです。そしてコナミ時代の最終作「たまゆら」は響きの美し さに磨きをかけ、ついには合唱団を配した集大成的作品。これぞメロディックスピードプログレ合唱(なんだソリャ)!いろんな意味で、涙なくしては聴けませ ん。この作品を残したところで佐々木氏はコナミから退社されるのですが、その後も彼の新曲を待ち望む声は多く、2シリーズを経た後、ついに外注という形で 新曲提供が実現します。それが佐々木プログレ裏最終作「Time Piece Phase II」。まさにアンコール・ステージの名に相応しく、清々しいエンディングを迎えます。

 佐々木氏の楽曲にハマった場合、次は同じく「ギタドラ」シリーズの主なプログレ系コンポーザーの曲を聴いてみましょう。バンドサウンドよりピアノの旋律 が好みの方は下段の久保田修氏の紹介に飛んでください。もっと"いわゆるプログレ"に近いものが聴きたい方は最下段へ。



「ギタドラ」シリーズのプログレ系コンポーザー


 勿論彼らの曲すべてがプログレというわけではないので、主なプログレ系楽曲をピックアップして紹介します。

泉陸奥彦
 コナミ入社後は数々のアーケード・ゲーム楽曲や矩形波倶楽部の「ルーズベルト泉」として一部で知られていますが、それ以前は知る人ぞ知る日本のプログ レッシヴ・ハードロックバンドDADAやKENNEDYを経て、一時はHacoのアフター・ディナーに参加していたり、またある時は"アバンギャルド・ヘ ヴィー・パンク・ジャズ・バンド"SADATO GROUPでフリーキーな即興演奏を展開、同バンドのメンバーとしてモントルージャズフェスに出たこともある異色の経歴をもつギタリストです。
 強烈な熱量を放つアグレッシブなプレイが特徴で、まさにGuitar Freakの名に相応しい方です。氏の書く曲はハードロック調からしっとり目のブルース、民族シリーズ、歌ものが中心ですが、プログレッシブな側面が最も あらわれるのがボス曲の「MODEL DD」シリーズ、そしてベーシストのコンポーザー肥塚良彦とのユニット「Trick Trap」での楽曲です。「DD」シリーズはボス曲「DAY DREAM」を基本とした変奏ともいえるシリーズです。16分刻みの複合拍子リフの上で展開されるソロは破壊力抜群!やっとの思いでボス曲ステージにたど りついたプレイヤーの腕とライフゲージもあっという間に破壊しつくしてしまいます。個人的にはDAY DREAM、MODEL DD3、MODEL DD4がおすすめです。また「DD」シリーズ以前の高難度曲「LOUD!」はクリムゾンの独自解釈とのこと。

Jimmy Weckl
 コンポーザー上高治巳氏がBEMANIシリーズで使用する名義。ジャズ、クロスオーバー的なルーツを匂わせつつ基本的に色んなタイプの曲を書く方です が、一旦複雑なことをやり始めるとかなり込み入ったものを書きます。マルチ奏者ならではのトリックあふれる構築が特徴で、特にリズム面でのこだわりが強 く、スリップビートを書かせたら右に出るものはいないでしょう。それらは初見では絶対にノらせてくれないけれど、曲やフィルの譜面を覚えるたび難所がクリ アできるようになるという、ある意味で音ゲーの醍醐味を体現するような曲でもあります。サウンドはフュージョンライクなジャズロックでしょうか?ただ「万 華鏡」や「ミラージュ・レジデンス」などに見られるハードな展開や歌心はなかなかプログレ的です。蛇足ですが2010年春にシルエレでサークルライブをし た際、ライブ後片付けの時KBBとこの「万華鏡(ロング版)」が流れていたのが印象的でした。他には「Herring roe」、jubeat曲のリアレンジ版「Icicles」、「cockpit」、「Zigzag Life」、「Waza」などがお薦めです。

あさき
 「ギタドラ」シリーズのみならず、今やほとんどのBEMANIシリーズにわたってアクの強い楽曲を放出し続ける方。歌唱法がそれ風なためヴィジュアル系 といわれることが多いのですが、本人はプログレメタル(に近い何か)、湿フォーク、京都メタルなどと形容しています。一聴してそれとわかる声や艶っぽい音 作りと音使い、ストリングを配したクラシカルな旋律、混み入った展開、そして変拍子の多用、また細かいところでは多重録音の傾向や独特のリズムアクセント の癖(一拍目をタメて二拍目に強拍を置く、など)が特徴的です。「蛹」にはじまり、「この子の七つのお祝いに」、「螺子之人」、ソロアルバム収録の長尺曲 「神曲」、ポップンに提供の「天庭」(閣下名義)、「万物快楽理論」などにそうした"あさき節"が顕著に現れています。その濃ゆ過ぎる個性から色物っぽく 見られることもありますが、基本的なソングライティング能力も優れていて、自身の名義以外での作品やメロディアスな楽曲の場合、真正面から聴いても文句な しに良いものを書きます。その好例として「月光蝶」「空澄みの鵯と」は(全くプログレではないですが)是非聴いていただきたいです。

96
 プログレバンド「軌道共鳴 Orbital Resonance」のギタリスト、黒沢ダイスケ氏がBEMANIシリーズで使用する名義。Dream Theater Songwriting Contestなる大会で2位になった実績があるそうで、作風からもそのDream Theaterフリークっぷりが伺えます。楽曲はギターインストが中心で、流麗なメロディラインとソロ、奇数拍子のヘヴィリフ、そしてDream Theater風のメカニカルなシーケンスフレーズが特徴です。ポップンに提供した「ポルターガイスト」ではプログレバンド 「Fantasmagoria」のヴァイオリニスト藤本美樹氏、「恐怖の右脳改革」ロング版ではベースにGERARDやVIENNAの永井敏己氏、ドラム に"手数王"こと菅沼孝三氏をそれぞれフィーチャーしています。他に「一網打尽」はDream Theater偏愛の香る中から扇情的な泣きメロが浮かび上がる96ちゃん流プログレメタルの名作です。


 またつい多く挙げてしまいましたが特におすすめなのはやはり佐々木氏の「100秒」「コンチェル」、Jimmy氏の「ミラージュ・レジデンス」、96ちゃんの「ポルターガイスト」「右脳改革」辺りでしょう。あとはどう考えても音ゲーでやるような曲じゃない、泉氏とJimmy氏の共犯フリージャズ「Jungle」も壮絶です。



 「beatmania IIDX」シリーズのコンテンポラリーな曲にもプログレリスナーにアプローチしそうなものがあります。
ピアニスト久保田修(Osamu Kubota)氏 がBEMANIシリーズに提供する楽曲はクラシカルな耽美感を基調にジャズ、ラテン、バラード、ワールド等々の要素をクロスオーバーしたもので、変拍子も 頻出します。梶浦由紀が好きな人にはマッチするかもしれません。おすすめは「foreplay」「Presto」「Red Nikita」、キーマニに提供の「Carezza」辺りでしょうか。それと「mind the gap」は珍しく(?)シンセ系プログレな一曲。クリップもアホっぽく(褒めてます)て良いです。

 同じくシンセプログレの名曲は、自他共に認めるシンセフリークSota Fujimori氏が全てミニムーグの音色のみで作り上げた「100% minimoo-G」。映画『MOOG』に触発された反面、出演者より自分の方がシンセ狂だという自覚から悔しくなって作ったとか。キース・エマーソンをリスペクトしつつも勝負挑んでいる様子が伺えます…


 その他プログレッシブ(トランス)、コンテンポラリー系の曲として
「V」(5th style)
「革命」(7th style)
「A」(7th style)
「蠍火」(11 IIDX RED)
「冥」(12 HAPPY SKY)
「嘆きの樹」(13 DistorteD)
 などが挙げられます。




 また"いわゆるプログレ"に最も近いと思うのは以下の3曲
・「Keyboardmania」より「Armajiro」「Henry Henry
 ex-すかんちの小川文明(bunmei)氏によるキーボードトリオSuzy Cream Cheeseによる2曲です。
 前者はEL&P「タルカス」、後者はリック・ウェイクマン「ヘンリー八世と六人の妻」が元ネタになっていて、サウンドも顕著です。

・「pop'n music 7」より「EXCALIBUR
 ナヤ~ン氏による「NL&P」名義の曲。勿論EL&Pへのオマージュ。初期EL&P風のオルガン・ロック。

 BEMANIプログレの特徴ゆえか、五大でいうとEL&Pとクリムゾンの影響がよく見られます。
 キングクリムゾンの影響が濃いものは以下
・「Guitarfreaks 3rd mix & drummania 2nd mix」より「LOUD!
 クリムゾン「Red」的音使いのリフを基調に、マグマ風のキメも入る曲。
 泉陸奥彦氏のプログレ的ルーツが伺えます。

・「pop'n music 14FEVER!」より「Deep Magenta
 クリムゾンからストラヴィンスキーを経てブルガリアへと至る、ナヤ~ン氏の変拍子遍歴をつめこんだ一曲。


 代表的なものはざっと紹介できたかとは思いますが、まだまだ奥深く更に深化を続けているのがBEMANIプログレです。そしてこれらの楽曲をサントラそ の他で聴くのも良いですが、興味を持たれたら是非実際にゲーム(なるべくアーケード)でプレイして頂きたいです。やはり演奏して遊ぶ楽しさを考えて作られ ているので、ゲームの譜面を通して体感することがBEMANIプログレの本来の楽しみ方だともいえるでしょう。それでは、みんな、プログレやろう ぜ!BEMANIやろうぜ!てなことで、この辺で。

(2011/04/09 掲載) 文責 @fxkx